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大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)4360号 判決

主文

一  本訴被告は、別紙一覧表1の当事者欄記載の各本訴原告に対し、それぞれ同一覧表の該当する認容額欄記載の金員及びこれに対する昭和六二年六月七日から支払済みまで年五分の割合による金員並びに同一覧表2の当事者欄記載の各本訴原告に対し、それぞれ同一覧表の該当する認容額欄記載の金員及びこれに対する昭和六三年七月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  本訴原告らのその余の請求及び反訴原告の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、本訴・反訴を通じ本訴被告・反訴原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

理由

第一  請求

一  本訴(昭和六二年(ワ)第四三四〇号事件及び昭和六三年(ワ)第四三六〇号事件)

本訴被告は、別紙一覧表1の当事者欄記載の本訴原告に対し、それぞれ同一覧表の該当する請求額欄記載の金員及びこれに対する昭和六二年六月七日から支払済みまで年五分の割合による金員並びに同一覧表2の当事者欄記載の各本訴原告に対し、それぞれ同一覧表の該当する請求額欄記載の金員及びこれに対する昭和六三年七月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴

1(平成元年(ワ)第一八七九号事件)

反訴原告に対し、反訴被告甲野及び同乙山春夫は各自金二〇〇万円、その余の反訴被告らは各自金一〇〇万円、並びに右各金員に対する平成元年三月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2(平成元年(ワ)第三七九六号事件)

反訴原告に対し、反訴被告甲野及び同乙山春夫は各自金六〇〇万円、その余の反訴被告は各自金三〇〇万円、並びに右各金員に対する平成元年五月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、大学入試受験生又はその保護者である本訴原告(反訴被告。以下「原告」という。)らが、本訴において、本訴被告(反訴原告。以下「被告」という。)に対し、被告が経営する大学受験予備校「丙川大予備校」に入学したところ、丙川大予備校の実態が入学案内等における事前の表示・説明と相違し、戊田大学等の入試に対応し得る水準に達していないなどとして、債務不履行又は詐欺による不法行為を理由に学費相当額、慰謝料及び弁護士費用の損害賠償を求めるものであり、被告は、反訴において、原告らに対し、原告らが本訴において、丙川大予備校の内容が拙劣であるなどと主張したことにつき名誉毀損による精神的損害の賠償を求めるもの及び被告が丙川予備校入学契約を履行しているのに債務不履行を主張したことにつき、そのために起きた紛争による財産的損害の賠償を求めるものである。

一  丙川大予備校入学契約の締結

被告は、丙川大予備校の名称で大学受験予備校を開設して、生徒の募集を行う者である(争いがない。)。

原告らは、昭和六一年三月から四月にかけて、大学受験生及びその保護者(原告らのうち別紙一覧表1及び2の請求金額欄の金額が五五万円以上の者は、受験生本人であり、以下「原告受験生ら」という。)として、被告との間で、昭和六一年度における阪大予備校入学契約を締結した者である。

二  争点

1  丙川大予備校の実態が入学案内等における事前の表示・説明と相違し、戊田大学等の入試に対応し得る水準に達していなかつたかどうか。

2  原告らの損害額

3  名誉毀損の成否

第三  争点に対する判断

一  争点1について

《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

1  入学案内等による事前の表示・説明

(一) 入学案内の配布等

被告は、原告受験生らを含む入学希望者に「少数精鋭の丙川大予備校」と題する印刷された小冊子(以下「本件入学案内」という。)及び料金等を説明した昭和六一年度入学要項を購入させており、また、丙川大予備校の昭和六一年度の生徒の募集にあたり、同年二月ないし三月ころ、近隣の大学受験生宛てに募集広告の葉書を送付したり、アルバイトを使つて街頭で募集広告のチラシを配布したり、近隣の高校を回つてチラシを託したりしていた。

(二) 本人入学案内等の記載内容は、次のとおりである。

(1) 指導方法について

本件入学案内には、「少数精鋭主義による英才教育」、「一人一人の個性をよく把握して、これに最も適した指導で受験生の能率をあげる」、「本校では創立以来全員合格の大目標のため個人指導に多くの精力を傾注し」、「1クラスは小人数とします」との記載があり、個人指導に重点を置くことが強調されている。

また、前記葉書・チラシには、「大学受験科」との項の下に「国公立大文系」、「国公立大理系」、「私立大文系」、「私立大理系」との記載があり、前記入学要項にも、阪大予備校において設置される課程として「第一本科」が設定され、その記載の横に「国公立大文系」、「国公立大理系」、「私立大文系」、「私立大理系」と列記されているうえ、「国公立大文系」・「国公立大理系」と「私立大文系」・「私立大理系」とで選考試験の内容が異なつており、あたかも志望に応じた四コースがあるかのような表示がされている。なお、この点につき、本件入学案内には、「文系、理系、国公私大の区別はせず充実した授業で効果をあげている。」との記載があるが、右記載は、「本校の特色」として多くの項目を掲げる中の「本校の目標は阪大ならびに一流大他」という項目の末尾一行に唐突に掲げられており、先の表示に比べると目立つものではなく、本件入学案内全体の構成は、志望に応じたコース分けがあるとの誤解を与えるものである。

更に、本件入学案内には、各科教授方針として、各科目毎の指導方針の記載があり、次いで、「完璧の入試対策」と題して、「一年間を通じての一貫した学習計画により成功へと導くことが本校の方針である。」等の記載があり、「必勝へのステッププラン」、「エスカレーション・プロジェクト」と題して、四月から翌年二月までの期間を区分し、各区分を「基礎シリーズ」、「征服シリーズ」、「練成シリーズ」などと名付け、区分毎に概括的な勉学方針を掲げた図表の記載がある。したがつて、本件入学案内には、詳細な年間の授業計画が確立されているかのような表示がされているというべきである。

(2) 講師について

本件入学案内等には、被告が「戊田大学元教官」として紹介されているが、右「戊田大学元教官」との記載は、これを読む者に対し、被告が戊田大学の教授、助教授又は講師等の経歴を有する者であるとの印象を与え、また、「名称にふさわしい優秀ベテラン指導者」、「優秀なる教育者で長年の経験を有する指導者で、戊田大学元教官、戊田大学卒教育者、一流大学卒教育者他である」などの記載もあり、丙川大予備校においては、戊田大学出身等の教育専門家を中心とする多数の優秀な講師が授業を行つているかのような印象を与えている。

(3) 授業内容について

本件入学案内には、「京大他一流大受験生にはこれ程実力を養成する陣営はなく、加えて大学入試傾向を把握でき大いに学習に役立ち必ず受験生を戊田大等一流大へぐいぐいみちびき念願の一流大合格をはたすであろう。」、「戊田大に入学するには(中略)とくに本校で勉学するのが最適である。本校は丙川大予備校と称するように、丙川大受験に最適の予備校である。」などの記載があり、丙川大予備校においは、有名国立大学、特に戊田大学の入試に対応し得る水準の授業が行われるかのような表示がされている。

(4) 合格実績について

本件入学案内には、過去の実績として東大、京大、阪大などの国公立大学、慶大、早大などの私立大学の合計三〇大学の名を挙げ、また、本件入学案内と併せて原告ら受験生に配布されたカードには、一七六名の氏名が「東大」、「京大」、「阪大」などの大学毎に分類されて列記されている。これらは、丙川大予備校の入学者数からすれば、入学者の大部分が右のような大学の入試に成功するかのような印象を与えるものである。

(5) 施設について

本件入学案内等には、本部校のほかに「梅田校」なる予備校施設が存在し、開講しているかのような記載がある。

(三) 被告による口頭の説明・勧誘

被告は、丙川大予備校を訪れた原告受験生らに対し、講師は戊田大学などの国立大学関係者で占められている、少人数制で確実に指導する、夜の九時になつても授業をするなどと述べたり、「ぼくについてくれば、必ず合格させてやる。」、「いままでほとんどの者が希望の大学に入つている。」などと熱心に入学を勧誘したりした。

(四) 原告らの入学申し込みの動機

原告らは、予備校の選択にあたり、学費の安さのほか、伝統がある、優秀な講師が揃つている、個人指導中心であるなどの本件入学案内等に記載されている内容・特色、「丙川大予備校」という名称、戊田大元教官という校長の肩書き、合格実績の記載、被告の熱心な勧誘などから、丙川大予備校の授業内容が大学受験予備校として信頼できるものであると考え、入学を申し込んだ。

(五) 小括

右認定事実を総合すると、被告の丙川大予備校に関する事前の表示及び説明は、原告受験生ら及びその保護者らをして、丙川大予備校が、個人指導に重点を置き、各受験生の志望に応じてきめ細かく対応し、詳細な年間の指導計画が確立されており、また、戊田大学出身等の教育専門家を中心とする多数の優秀な講師を各授業に配置して、戊田大学等の国公立大学の入試に対応し得る水準の授業及び受験情報の提供を行う予備校であり、入学者が講師や授業内容を信頼し、安心して通学できる予備校であることを信じさせるものであつたと解することができる。

2  丙川大予備校の実態

(一) 指導方法等

被告は、昭和六一年度の丙川大予備校生徒を入学させるにあたり、入学希望者に対し選考試験をすると称して受験料五〇〇〇円を納付させたが、口頭で出題する英語の小テストや作文などを行つたのみで、右入学希望者のほぼ全員約八〇名について入学を認めたうえ、志望別のクラス分け・コース分けは行わず、理科などの選択科目以外は基本的に受講者全員を一つの教室に詰め込んで授業を受けさせた。

また、セミナーと称する授業も行われたが、教材が変わるだけで、方法としては通常の授業と変わらず、個人指導と呼べるようなものではなかつた。

そして、英語の授業は、最初の頃は、カリキュラムを無視したもので、その大部分が被告による授業であり、その後の授業も、時間的には被告による英語の授業が圧倒的に多く、全授業の五、六割を占めており、また、英語の授業中に数学のテストが行われたり、生物の授業が突然休講になつたり、実施時間が不規則になつたり、急に時間割が変更されるなど計画性のない場当たり的なカリキュラムであつた。

更に、毎週の週間テスト、模擬試験などの予定されていたテストは、ほとんど行われなかつた。

(二) 講師

丙川大予備校において講師として主に授業を担当するのは被告であり、その他の講師で継続して原告受験生らに姿を見せるのは、七、八人に過ぎず、多くが大学院生風のアルバイト講師であり、かつ、被告は、各講師に対し、その氏名、肩書きを生徒に告げないように指示していた。なお、被告は、丙川大予備校の講師の一部につき、その氏名、経歴等を種々供述するが、その者が講師として継続的に授業をしたことも、そのような経歴を有することも、認めるに足る証拠はない。

そして、被告は、戊田大学元教官を自称するが、教官としての地位、講座、時期等を具体的に明らかにせず、被告が戊田大学の教授、助教授又は講師ないしは右に準ずる地位にあつたと認めることはできない。

結局、丙川大予備校が戊田大学出身等の教育専門家を中心とする多数の優秀な講師を揃えているということは到底できない。

(三) 授業内容

(1) 被告の授業について

被告は、英語の大部分と国語の一部の授業を行つていたところ、そのうちの英語の授業内容は大きく分けると、英作文と英語の空欄補充問題だけであり、英作文は、被告が口頭で述べた日本語を英語にするというもので、被告が一問毎に各生徒にノートに書いた解答を被告の前に持つてこさせ、個別にこれを添削するとの方法を採つたため、各生徒は、自分の順番が来るまで長い時間待たされることが多く、また、被告は、正誤だけを示し、正解とするまで何度でもやり直させていたことから、授業の効率が悪く、一コマ二時間の間に数問しか進まないことが多かつた。また、英語の空欄補充は、市販の問題集をそのまま引用してプリントしたものにすぎず、被告は、解答に至る説明も、「一番これがぴつたりくる」とか「語調的に言つて力が強い」などというにとどまり、それ以上のものはなく、生徒の質問に対しても「正解はこうなつている」と繰り返すだけであつた。

更に、被告は、その英語の授業において、長文の英文解釈は全く行わず、英単語のスペルや発音などを間違うことがあり、生徒から辞書をもとにそれを指摘されると、辞書の方が間違つていると強弁したり、また、生徒の質問にも満足に答えられないことがあり、そのうえ、英作文における同一問題に対する同じ解答について、生徒によつて正誤の判断を異にすることもしばしばあつた。

更に、被告は、国語の授業においても、生徒からの質問や指摘に対し、「そのような意見もある。」などの応答しかせず、授業のかなりの時間を被告の身の上話等の雑談で費やしていた。

(2) 被告以外の講師の授業について

被告以外の講師の授業についても、一部の授業を除いて、講師が準備をしておらず無計画であつたり(化学の一部)、問題集の答合わせに終始したり(日本史、国語)、生徒の質問に対し満足な応答をしなかつたり(国語、数学の一部)、講師が転々と変わつたり(国語)などして、生徒の間で不満が広まつていた。

また、被告が、他の講師に対し、授業で用いるべき市販の問題集を一冊渡すのみで、年間る詳しい授業計画や日程などについて予め知らせなかつたこともあつて、被告の組んだ日程では責任の持てる授業が行えないと考える講師もいた。

(四) 合格実績

本件入学案内と併せて原告受験生らに配布されたカードには、東大等の大学合格者として一七六名の氏名が列記されているが、そのうちの二名は一七年前の合格者であることが認められるところからすれば、右一七六名のうち昭和六一年ないし最近の合格者はごくわずかである可能性が高く、右合格実績は、欺罔的な表示といわざるを得ない。

(五) 設備

生徒は、自分の受講科目以外の教科の授業が行われていて、自習の必要があるときには、授業中の教室の片隅をアコーディオンカーテンで区切つた、五人位が使える机が一つ置かれただけの所での自習を余儀なくされた。

また、生徒用のトイレは、建物内に一か所あるのみで、休憩時間には行列ができ、生徒は不便を強いられた。

更に、「梅田校」については、建物はあるが、丙川大予備校の看板は出されておらず、丙川大予備校に「梅田校」なる予備校施設があると認めることはできない。

(六) 出席者の減少

丙川大予備校の昭和六一年度の生徒は、当初八〇人程いたものの、その後の出席者は、同年五月の初め頃には五〇人程に、同年六月には当初の約半数に、夏期講習が始まる頃には二十数名に、同年一〇月の終わりころには一〇名足らずに減少した。

(七) 紛争の続発

被告は、昭和五四年度及び五八年度にも、当時の生徒らから授業料の返還を請求されるなどし、その一部は本件と同様に民事訴訟にまで至つたことがあり、その際の右生徒らの主張した理由には、被告による授業の内容が問題とされるなど本件と共通するものがある。

3  まとめ

以上のとおり、丙川大予備校は、学力レベルに関してはほぼ無条件に生徒を入学させたうえ、志望に応じたクラス分け・コース分けはせず、個人指導はほとんどされず、時間割や講師配置は不安定であり、また、被告が多くの授業を受け持ち、内容的にも原告受験生らにさえ多くの欠陥を指摘され、その不信・不安を招くような低い水準の場当たり的な授業を行つていたものであり、また、設備的にも不十分なものであり、その結果、原告受験生らは、次々と丙川大予備校をやめていつたものである。

右によれば、丙川大予備校は、被告の原告らに対する事前の表示・説明と相違し、実態としては、指導方法、講師、授業内容、設備等において、大学受験生を募集し学費を徴収して大学受験指導を行う予備校としては内容が著しく低水準であり、大阪大学等の国立大学どころか、一般の大学の入試に対応し得る水準にも達していなかつたものといわざるを得ず、被告は、原告らに対し、予備校入学契約に基づく債務不履行責任を負うものである。

二  争点2について

1  学費相当損害

別紙一覧表1及び2の支払学費欄に金額(二五万円。但し、原告甲田一郎のみ一六万円。)の記載のある原告らは、被告に対し、自己又は子供の丙川大予備校の学費として、それぞれ右金額を下らない金員を支払つた事実を認めることができる。なお、この点に関し、被告は、原告らからの領収書の不提出の事実をもつて、学費未払と主張するが、《証拠略》によれば、学費は原則として入学時に納められることになつており、かつ、原告受験生らが期間の長短はあるものの丙川大予備校において授業を受けていた事実が認められる以上、領収書の不提出の事実のみでは右認定を左右するに足りない。

そして、丙川大予備校が、被告の原告らに対する事前の表示・説明と相違し、実態としては、指導方法、講師、授業内容、設備等において、大学受験生を募集し学費を徴収して大学受験指導を行う予備校としては内容が著しく低水準であつたものであり、かつ、前記認定事実によれば、仮に、原告らは、丙川大予備校の実態を事前に知つていたならば、丙川大予備校の入学を申し込まず、学費の支払いもしなかつたであろうと認められることから、右原告らは、別紙一覧表1及び2の支払学費欄記載の金額の財産的損害を被つたものと解するのが相当である。

2  慰謝料

原告受験生らは、大学受験に失敗し、翌年の合格に向けて受験勉強に励んでいたところ、前記認定のような丙川大予備校入学契約の債務不履行により、学費を無駄にしたばかりでなく、受験勉強のための貴重な時間の浪費を余儀なくされ、また、他の予備校に入学して勉学する機会を失つたため、多大な精神的苦痛を受けたことが認められるところ、これに対する慰謝料の額は、各自三〇万円とするのが相当である。

3  弁護士費用

本件事案の違法性の程度に、本訴請求に対する被告の対応を勘案すると、原告らに生じた弁護士費用のうち、認容額のほぼ一割に当たる金額(原告甲野及び同乙山につき各自六万円、原告甲田一郎につき二万円、その余の原告らにつき各自三万円)は、本件債務不履行と相当因果関係のある損害と認められる。

三  反訴請求について

原告らは、「丙川大予備校は、その入学案内等に記載されたところとは全くかけ離れた拙劣な内容しか有せず、特に重視されるべき講師陣・授業内容においては拙劣極まりなく、到底生徒の要求に答えられるものではない。」と主張し、また、丙川大予備校入学契約の債務不履行を主張して、本訴を提起し、右各主張は、本訴の請求原因事実としてされたものであるところ、訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的・法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのに、敢えて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨・目的に照らして相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当であり(最判昭和六三年一月二六日。民集四二巻一号一頁参照)、前記のとおり原告らの本訴請求は、理由があるものであるから、原告らの右行為は違法性を欠き、不法行為を構成しないことは明らかである。

第四  結論

以上のとおりであるから、原告らの本訴請求は別紙一覧表1及び2記載の各本訴原告につき対応する同一覧表認容額欄記載の金額及びこれに対する各訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから認容し、その余の本訴請求及び被告の反訴請求はいずれも理由がないから棄却することとする。なお、訴訟費用については、民事訴訟法八九条、九二条但書を、仮執行の宣言については、同法一九六条を、それぞれ適用する。

(裁判長裁判官 大島崇志 裁判官 設楽隆一 裁判官 佐茂 剛)

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